『古語大辭典』の發刊を祝して 홍윤표(ホン・ユンピョ)
膨大なる7冊の『筆寫本古語大辭典』の刊行から僅か6年。『筆寫本古語大辭典』を大幅修正・補完した『古語大辭典』が誕生しました。標題項數がおよそ22万に達し、用例が數十万にも及ぶ21冊の『古語大辭典』の出現は、如何に素晴らしい美辭と麗句を用いて贊辭を贈ってもその驚異なる業績を十分に表現することは不可能でしょう。この辭典の刊行は、韓國の文化史に末永く語り継がれるもう一つの金字塔だと言わざるを得ません。
辭典は、言語の硏究において最も基本となる工具書であると同時に、言語硏究の最終段階とも言えます。また、言語と文化情報を集大成した言語・文化硏究の總集合体であるため、一國の辭典は、その國の學問と文化の水準を示す重要なバロメータであります。そのため、この『古語大辭典』は、今日の韓國の學問と文化の水準をより一層發展させた偉大なる業績として殘るでしょう。
辭典は重要な文化資産と同樣、ある日突然完成するものではありません。辭典というのは、ミシンでさっと製作する衣服なのではなく、針を使ってひと針ひと針丁寧に作り上げる衣服のようなものです。長い時間をかけて、苦しみを耐えしのんでこそ得られる大事なものなのです。つまり、辭典が誕生した時の喜びは、10か月間胎內に宿していた自分の子を安産した母親の喜び以上のものなのです。辭典にある一つ一つの項目は、まるで一本の論文を書き上げるような過程を経なければならないので、その個々の項目が辭典として誕生した時の喜びは、直接辭典を編纂した人にしかわからないものなのかもしれません。
そのような意味で、この『古語大辭典』の刊行は、この辭典を編纂したパク・チェヨン(朴在潤)敎授のみならず、この辭典を利用するすべての方にとって祝福だといえるのではないでしょうか。だからこそ、私たちは韓國の文化史に重要な足跡を殘すであろうこの『古語大辭典』の發刊を祝すのです。
古語辭典は1940年代に辛泰鉉氏の『古語集解(正音35集、1940年)』の試みに端を發し、パン・ジョンヒョン先生の『古語材料辭典』(前集、後集、1946年-1947年)を始めとする數多くの辭典が編纂されてきましたが、今日、古語辭典の代表格といえるのはナム・クァンウ先生の『古語辭典』(1960年)とこれを修正・補完した『敎學古語辭典』(1997年)、ユ・チャンドン先生の『古語辭典』(1955年)に引き継ぐ『李朝語辭典』(1964年)とハングル學會が編纂した『ウリマル大辭典』の「イェッマルとイドゥ」編(1992年)が擧げられます。そのような中、パク・チェヨン敎授の『古語辭典』(2001年)の誕生を機に、古語辭典の編纂は新たな局面を迎えることになったのです。
『古語辭典』は、樂善齋にある筆寫本の翻譯小說を中心に編纂されたもので、この辭典はこれまでの古語辭典が殆ど扱ってこなかった筆寫本の古小說類を調査し、そこに登場する語彙を對象にして編纂したものです。そのような中、『古語辭典』を含め、その內容を大幅補完した新たな『筆寫本古語大辭典』(2010年)が刊行されたのです。標題項數が70,615個、用例數が188,034個にも及ぶ最大級の古語辭典であるだけでなく、ミクロ構造をより正確に、そして詳しく記述した、現代國語辭典よりもさらに膨大で精密な辭典でした。
ところが、この辭典をさらに修正・增補したとされる『古語大辭典』が私たちの目の前に現れたのです。『筆寫本古語大辭典』以來、この辭典が完成するまでにいかに多大な努力や時間が費やされることか懸念していましたが、それがたった6年で現實のものとなり、大変驚いています。感嘆せざるを得ません。祝賀せざるを得ません。
この『古語大辭典』の刊行は、韓國の辭典編纂の歷史における新たなマイルストーンだという点で大変有意義だといえます。21冊にも及ぶこの辭典は、現代國語辭典の編纂の歷史でも例を見ない膨大なものであります。韓國精神文化硏究院が刊行した『民族文化大百科事典』も全28冊ですが、言語辭典である『古語大辭典』が全21冊で刊行されたということは全11冊で刊行されたOED(Oxford English Dictionary)や全16冊で刊行されたGrimmドイツ語辭典の業績を上回る、實に偉大なる業績だと言えるでしょう。莫大な人力と予算が投入された『標準國語大辭典』や近い將來開放すると予想される『開放型韓國語知識大辭典』でさえ、この『古語大辭典』と肩を並べることはできないだろうという考えは私一人だけのものではないでしょう。また、この『古語大辭典』の完成は總合韓國語辭典の質と量を一層高めるという意味も倂せ持っています。韓國の代表的な國語辭典の一つである『標準國語大辭典』(2015年6月27日インターネット修正版)には、大雜把にみても「古き言葉」、つまり古語の項目は計12,818個あります。これに比べて、ハングル學會の辭典には22,855個の古語標題項があります。しかし『古語大辭典』には漢字語が含まれてはいるものの、標題項がおよそ22万個もあるため、今後、總合國語大辭典を修正・補完する際に大幅に補完されることでしょう。それだけでなく、『古語大辭典』の出現は辭典編纂に携わっている多くの人々に勇氣を与え、これが各自それぞれの分野における辭典の登場へとつながることでしょう。
この『古語大辭典』には以下のような特徵があります。
第一に、この辭典に登載されている語彙はフンミンジョンウム(訓民正音)創製以來~20世紀初期までの國語語彙だということです。
古語とは、主に20世紀以前の國語を意味します。しかし21世紀以來、20世紀半ばまでの國語も古語の範囲に含めることができます。ところが、國語に關する歷史的な硏究が主に15世紀~16世紀の中世國語に集中していたため、殆どの古語辭典は中世國語の時期の文獻を調査して編纂されてきたのです。これに比べて、今回誕生した『古語大辭典』は、すべての時期のハングル資料を對象にして編纂されたので、從來の古語辭典には登載されていない語彙が相当數含まれています。つまり、『古語大辭典』は『筆寫本古語大辭典』が17世紀~19世紀のハングル文獻を主な調査對象としていたという限界を克服して、名實ともに古語辭典としての地位を獲得したと言えます。
第二に、この辭典はほかの古語辭典に比べて非常に廣い範囲にわたる文獻を對象にして資料を收集したということです。
この『古語大辭典』は、およそ500種余りのハングル文獻約4,000冊と諺簡(ハングルで書かれた手紙)をはじめとするハングル古文書約2,000点余りを調査對象としています。今までに知られているハングル資料のほぼ全てを一つ一つ調査・分析してリスト化し、用例を用いた意味解釋という過程を経て編纂されたのです。殆どの從來の古語辭典は、木版本、活字本などといった、版本の形で刊行されたハングル文獻を中心に編纂されたものです。これは、版本の刊行年度がある程度明確に記錄されていたため選擇が容易だったことに起因します。しかし筆寫本の殆どは筆寫記や轉寫記が書かれていないため、國語史硏究の資料に相応しくないという限界があります。それだけではなく、多くの筆寫本資料、その中でも特に筆寫本の古小說は宮体、それも正字体ではなく草書体で書かれたものが多いため、これらを判讀し解讀する過程を経なければならず、このような至難の業を通じて言語資料として活用することはめったになかったのです。しかし筆寫本のハングル文獻、とりわけ古小說類は版本文獻に比べて語彙の使用が非常に多樣であり、これらの資料を除いて古語辭典を編纂するということは、片方の車輪が欠けた手押し車のように不完全なものだと言えるでしょう。この『古語大辭典』には、これまでの古語辭典では成し遂げられなかった至難の業を達成し、編纂した『筆寫本古語大辭典』に、版本や活字本、ひいては鉛活字本までをも含めた全てが盛り込まれており、一輪だけの手押し車だった古語辭典を兩輪揃った手押し車、つまり完全な形の古語辭典へと轉換させる切っ掛けになったとも言えます。
第三に、この辭典はコーパスを活用して編纂された辭典ではないということです。
今日のようなデジタル時代にはコーパスを土台として編纂されていない辭典はほぼ皆無に近いと考えられています。標題語の選定過程と用例抽出過程においてコーパスを適切に活用します。コーパスをコンピューターで處理して單語の索引を作成した後、その索引をもとに言語單位の形式的な特性や各種の頻度を測定し、その頻度の測定次第で標題語を選定します。そして、選定された標題語の用例を檢索し、語彙の意味の頻度に從って意味項目(多義語)の配列と範囲を設定し、見出し語の關連用例を分析します。それから各種の音韻、語彙、文法の特徵を記述する過程が、コーパスを活用して辭典を編纂する過程の大略だといえます。しかしこの『古語大辭典』は、資料をコンピューターに入力する作業は経るものの、コーパスを直接活用するのではなく、以前の辭典編纂方式である手作業に固執しながら編纂されたものです。コンピューターが機械的に資料を檢索し、これを選擇して例文を作り、これを土台に意味の解釋をする方式は機械に依存した方式だと言えるでしょう。そのため、一つの項目を選定し、例文を提示し、意味解釋をする際に見過ごす部分が出ざるを得ないという点がコーパスを基盤とした辭典編纂の短所だといえます。この『古語大辭典』ではこの点を見拔き、文獻を一つ一つ讀みながら見出し語として登載する必要があると判斷される語彙を選定して例文を提示し、その例文に對応する漢文文章をを分析して語彙の意味を解釋する作業をしたのです。おそらく、すべてのハングル資料がすべて入力され、そのコーパスを活用することができる狀況であったのなら、この辭典の編纂者はコーパスを活用したであろうと考えられます。このような作業方式は伝統的なものであるため、多少非難される可能性もありますが、それなりのメリットも倂せ持っています。それは、正確性です。そのような点でこの辭典は、記述や例示が大変正確になされている辭典だということができます。
第四に、相当數の例文にそれに該当する漢文の原文が提示されているということです。
この方式は、該当する文章に書かれている語彙の使い途はもちろん、その語彙の正確な意味の把握に大きく役立つはずです。それだけでなく、その語彙の持つ多義性までも把握することができ、ひいては國語語彙意味史の硏究に多大な貢獻をするでしょう。
第五に、この辭典は旣存の古語辭典を基にしたものでもなく、またそれらの辭典を修正・補完する過程で作られたものでもないということです。
從來の古語辭典の枠はそのまま維持したものの、盛り込まれている內容は旣存の古語辭典を參考にしながらもまったく新しいやり方で編纂を試みたという点は、この辭典が旣存の辭典の轍を踏まなかったということを意味します。
第六に、この辭典の編纂者たちが國語學者や辭典編纂者ではなく、主に外國文學、その中でも特に中國文學の硏究者たちだということです。
これらの特徵は辭典の編纂にさまざまな長所と短所をもたらします。辭典編纂の作業は、辭典學者と辭典編纂實務者、そしてその辭典の編纂を行政的・財政的にサポートする者の3つの要素がかみ合ってこそ可能なものです。この辭典は、主に辭典の編纂實務に優れた人たちが主管となって編纂したものです。しかしこの辭典の編纂者はハングルの資料に深い關心を持ち、長い歲月硏究してきたため、かなりのレベルに達している國語史硏究者、その中でも國語語彙史を專攻した人たちよりもはるかに深い見識と知識を持っていると判斷されます。このような見識と知識は國語資料を一つ一つ分析しながら讀んだ経驗のある人にしかわからないものなのだからです。
したがって、この辭典は旣存の辭典編纂實務者たちが編纂した辭典とは質の面で桁違いだと言えます。理論に偏ったものでも、だからといって實用的な面だけに重きを置いた辭典でもなく、理論と實用を調和させた辭典だと言えるでしょう。 辭典學に關する專門知識は國語學者の助力を得てきたのもこのような点を踏まえたからではないでしょうか。
この辭典は上記のような長所を特徵としていますが、今後の補完すべき編纂方式についても指摘しておく必要があります。なぜならば、この『古語大辭典』はもはや編纂者だけのものではなく、利用する人皆のものでなければならないからです。
コーパスを活用して辭典をより廣範囲に、容易に活用できるようにデジタル化し、利用者たちに提供していただきたいと思います。つまり、電子辭書の形で出版されれば利用者たちはより便利にこの辭典を利用することができるはずです。電子辭書の出版は印刷された紙の辭典の流通に足かせとなり、初めから電子辭書で出版することは容易なことではないでしょうが、紙の辭典がある程度流通した以降にでも、電子辭書が出版されれば21冊という膨大な量の本を本棚からいちいち持って來て讀まなければならないこともなくなります。また、その資料に加えて、編纂者がこれまでに發見できなかった資料を見つけ出した人たちがこの『古語大辭典』の補完に必要な情報を提供してくれるかもしれないからです。ある一つの語彙に關する用例はこの辭典に記述されているのが全てではないため、利用者たちは他のコーパスを利用してより豊富な資料に接することができます。それでこそ、この辭典を基に國語語彙史の硏究、國語意味史の硏究、國語形態史の硏究、國語音韻史の硏究、韓國漢字語史の硏究など、數え切れないほど樣々な硏究がより活性化されるでしょう。もう一つ付け加えますと、私はより多くのコーパス、例えばセジョンコーパスなども一緖に提供するのはどうかなと思います。この『古語大辭典』の資料の內容が流出することを恐れて電子辭典の出版を控えたとして、それを防止する方法も、防止策を硏究する十分な技術的進展もすでに存在する今日だということを忘れてはなりません。
辭典の編纂は語彙收集の作業からそれぞれの語彙の文法の特徵と意味及び用例に關する記述など、多樣で複雜な過程を経ますが、このような全ての過程においてコーパスを効率的に利用することができます。語彙收集の場合、コーパス資料を用いて基礎語彙を選別することができ、それぞれの語彙の文法的な特徵や意味も抽出することができます。また、コーパスの活用は編纂者が犯しがちなミスを補完し、廣範囲に渡った時期や領域に及ぶ資料をも辭典に登載することができるでしょう。
私はこの辭典の編纂者たちがこのような私たちの期待に必ず応えてくれると信じております。それだけの能力と勇氣と意志を持っていることが確認できているからです。編纂者であるパク・チェヨン敎授から、一生他の仕事は何もしないでこの辭典の編纂だけをしたいということを聞いたことすらあるほどです。しかしこのような信念と勇氣と意志だけで辭典が編纂されるわけではありません。その勇氣と意志に起爆劑となる狀況が必要です。辭典の編纂には、その仕事をやりこなせる人材と組織、そして辭典を編纂できる財政的な支援が必要です。
鮮文大學のパク・チェヨン敎授の硏究室と中韓翻譯文獻硏究所を訪れた人はいくつかの点に氣づいては驚くでしょう。 一つは、編纂員の數があまりにも少ないということです。一つの辭典が誕生するまで、少なくとも20人以上の編纂者が日夜邁進しても不可能なことを、たったの四、五人ほどの人が集まってこのような膨大な作業を成し遂げたというのはまさに奇跡だと言えます。これは、數少ない『古語大辭典』の編纂者たち皆が一丸となって作業をしてきたことを意味します。もう一つは、劣惡な財政環境の中でこの辭典を編纂しているということです。もともとは、韓國學術振興財団(現在:韓國硏究財団)から硏究費の支援を受けてはいますが、硏究費があまりにも少なく、硏究陣の人件費をまかなうことすら大変な狀況です。それも、數年前に硏究費が枯渴してしまい、ここ數年間はパク・チェヨン敎授一人でハングルの資料をいちいち探り、確認し、コンピューターに入力する孤獨な過程を経てこの辭典が完成したのです。その志と努力があまりにも殊勝だと言わざるを得ません。
辭典編纂の最後の日は、また新たな辭典の編纂が始まる日です。『古語大辭典』が刊行されてついにこの世の光を浴びることになりましたが、パク・チェヨン敎授によりすばらしい、新たな辭典を編纂する勇氣と力が新たに湧き上がることを願ってやみません。
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